非球面レンズ

【0015】
次に、本発明のズームレンズの要である非球面レンズについて説明する。
本発明のズームレンズにおける非球面の特徴は、以下の数式(A)に示す非球面式で表現したとき、幾つかの非球面係数の他にκを有効的に使用し、レンズ周辺部分に非常に大きなサグ量をもたせ、収差補正と小型化に貢献させたことである。
【0016】
<数式(A)>
X(y)=(y2/r)/〔1+(1−κ・y2/r2)1/2〕+C2・y2
+C4・y4+C6・y6+C8・y8+C10・y10+C12・y12
但し、
X(y) :光軸から垂直方向の高さyにおける各非球面の頂点の接平面から光軸方向に沿った距離(サグ量)
r :基準球面の曲率半径
κ :円錐係数
Cn :n次の非球面係数
【0017】
ここで、κについて説明する。上記非球面式(数式(A))の第1項をべき級数展開し、κに関係する非球面項のみを示すと次の数式(B)となる。
<数式(B)>
X(y)=(1/2)(C0+2C2)y2−(1/8)(C03κ+8C4)y4
+(1/16)(C05κ2+16C6)y6+・・・ ∵C0=(1/r)
【0018】
上記数式(B)より、κは4次以降の非球面係数に影響を与えることが分かる。またκを積極的に収差補正に使用することは、κ1つの項で低次項から非常に高次の非球面係数まで使用することに近い効果が得られる。特に、本発明のズームレンズにおける前方負レンズ群の非球面レンズのように、低次部分(比較的光軸近傍)の負の屈折力を強め、高次部分(光軸から離れ、最大有効径近傍)の負の屈折力を著しく弱めたい場合、さらには正の屈折力に変位させるような効果を非球面にもたせたい場合、κ=−1から+1未満、すなわち楕円面から双曲面を基準にした非球面が望ましい。
【0019】
斯かる非球面を有するレンズが、収差補正にどう関与しているのか概念的な説明を補足する。超広角レンズの軸外収差、特に歪曲収差、像面湾曲、下方コマ収差、及び倍率色収差を補正するためには、最も物体側のレンズを含む数枚のレンズ構成が重要である。
従来の超広角レンズでは、最も物体側のレンズ成分は凹凸構成と凸凹構成の2つの基本的な構成が知られおり、これは負レンズで大画角化を図る一方、発生する負の収差を補正するために負レンズの直前直後のいずれかに正レンズを配置する構成である。
【0020】
しかし、本来負レンズによって発生する正の収差を補正するために配置した正レンズが、高画角の光束に対して非常に大きな偏角を有するため、高次の負の収差を著しく発生させてしまう。また、本来焦点距離を短く、かつバックフォーカスを長くするために配置した負レンズ成分中に、正レンズを配置することで、同じ合成焦点距離を得る理由から、負レンズの屈折力をより強める必要性が生じてくる。これらの理由により、過剰な高次の下方コマ収差、像面湾曲の曲がり(像高の違いによる著しい収差値の差異)、倍率色収差の曲がり(像高の違いによる著しい収差値の差異)、陣笠形状の歪曲収差が発生してしまう。
【0021】
この収差的な特徴は、90°近傍の画角までは、基本構成である凹凸構成と凸凹構成ともに顕著な差は無い。しかし、画角が100°を越えた付近から、凸凹構成が著しく収差補正上不利となり、さらにレンズ系全体の小型化を図る点においても不利となる。したがって、画角が100°を越える本発明のズームレンズにおいては、そのような収差補正上の理由から、前方負レンズ群が先行する2つの負レンズ成分を有する構成としている。
【0022】
また、いずれの基本構成においても正レンズは、短い焦点距離と長いバックフォーカスを阻害する。しかしながら、軸外の周辺性能は凹凸の屈折力で収差を打ち消し、補正しなければ確保できない。このため、本発明のズームレンズでは、本発明の特徴的な非球面レンズが効果的に機能する。概念的に言えば、本発明のズームレンズでは、前方負レンズ群の軸上の屈折力は凹凹であり、ごく周辺部においては凹凸に変位すると考えれば、本発明における非球面の収差補正上の効果は簡単に理解できる。したがって、本発明のズームレンズは、非球面係数の通常の偶数次項に加えκを最適にコントロールし、良好な収差補正を実現することができる。
【0023】
また、非球面レンズは、設計的に可能であっても製造困難な設計解になることが多いが、本発明における非球面は巧みに形状制御を行って設計されているため、今まで研削方式やガラスモールド方式で製造が困難であった凹面非球面レンズをガラスモールド方式で製造可能な形状にすることが可能となった。
【0024】
次に、本発明のズームレンズに関する各条件式について説明する。
条件式(1)は、負の屈折力を有する発散性レンズ群(前群)中の非球面負レンズの非球面形状を適切に設定するための条件式である。この条件式(1)は、前述のように非球面係数の数々のパラメーターを駆使し、性能向上と生産性向上との共存を図るものである。そしてこの条件式(1)は、非球面レンズにおける軸外光線の通る最大の高さ部分(最大有効径位置)の厚みと、最大有効径の3割の高さにおける厚みとの比により、中心部分と周辺部分の非球面の擬似的な傾きとレンズ部品としての厚さの変化を表している。
【0025】
本発明のズームレンズにおける非球面レンズは、軸外光線の通る高さが最大の位置では主に非球面高次項とκのコントロールが支配的で、最大有効径の3割近傍ではκ、低次項のコントロールが重要な意味をもつ。上述のように収差補正については、最大有効径の3割近傍では球面収差、低画角の下方コマ収差、歪曲収差を良好に補正し、最大有効径近傍では周辺部分の歪曲収差、下方コマ収差、非点収差を良好に補正することができる。
【0026】
また、現在の非球面レンズの製造上問題として、ガラスモールドの場合、メニスカス形状で厚肉差が数十倍の非球面レンズは量産の難易度が極端に上昇する。そして凹面側の接線角が40゜を越えると高精度な形状の面を成形することができなくなり、さらに接線角が増して曲面が半球に近づくと、モールドそのものが不可能になってしまう。